第10回国際交感神経外科シンポジウム
2013年に開催された第10回国際交感神経外科シンポジウム
10th International Symposium on Sympathrtic Surgery (10th ISSS), Melbourne, Australia, 2013
2年ごとに開催される多汗症治療に関する国際学会です.各国から専門医が集まり,現時点での最も進んだ治療法と治療成績が発表されます.2003年はドイツ,2005年はオーストリア,2007年はブラジル,2009年は米国,2011年はデンマーク,2013年はオーストラリアで開催されました.私も2003年から6回連続して論文を発表し,今回はおだクリニックで行っている低位交感神経遮断(T4-ETS)の術後5年以上経過したの手術成績(アンケート調査結果)を発表しました.
同様のアンケート結果を第26回日本内視鏡外科学会総会(福岡,2013年)でも発表しました.以下のスライド(日本語)はその際に使用したスライドの一部です.
低位交感神経遮断手術の有効性に関する手術後アンケート調査
おだクリニックで平成19年10月から平成20年6月までに低位交感神経遮断(T4-ETS)をお受けになった187名の患者様を対象に,手術後1年目の第1回アンケート調査,手術後3年目の第2回目のアンケート調査,手術後5年目の第3回目のアンケート調査を行ってきました.多汗症術後の患者様を長期間にわたり追跡調査を行った報告はこれまでにほとんどありませんでした.
低位交感神経遮断手術(T4-ETS)1年後,3年後,5年後の手の汗に対する改善度
1.T4-ETS後の1年後のアンケート調査では手のひらの汗は100%の患者様に減少効果を認めました.手のひらの発汗停止,ほぼ停止した患者様は87.4%でした.夏の暑いときや過度に緊張したときに少し汗がでる患者様は12.6%でしたが,効果がまったくなかった患者様や逆に手のひらの汗が増加したケースはありませんでした.また,over drynessといって,手のひらがカサカサになって逆に悩む患者様もありませんでした.
2.T4-ETS後の3年後の結果もほぼ同様でした.手のひらの発汗停止,ほぼ停止した患者様は81.4%でした.夏の暑いときや過度に緊張したときに少し汗がでる患者様は16.7%と1年後に比べやや増加しました.
3.T4-ETS後の5年後の結果もほぼ同様でした.手のひらの発汗停止,ほぼ停止した患者様は77.6%でした.夏の暑いときや過度に緊張したときに少し汗がでる患者様は19.7%と1年後,3年後に比べやや増加しました.5年間で全体の1.6%(3名)の患者様が再発し,手術前とほぼ同じ程度に手のひらの汗が再びでるようになり,9.1%(17例)が部分再発で手術前に比べ少ないものの汗が少しでるようになりました.そのうち6例(3.2%)にT3-ETSの追加手術を行いました.T3-ETSの再手術後には手のひらは再びサラサラになり代償性発汗の増加も中程度でした。
低位交感神経遮断手術(T4-ETS)1年後,3年後,5年後の代償性発汗の程度
1.T4-ETS後の1年後のアンケート調査では夏の暑いときや運動後に代償性発汗は80%の患者様に出現しましたが,その程度はほとんど気にならない,もしくは中程度であり,過度な代償性発汗が現れたケースはありませんでした.
2.T4-ETS後の3年後の結果もほぼ同様でした.夏の暑いときや運動後に代償性発汗は73%の患者様に出現しましたが,その程度はほとんど気にならない,もしくは中程度であり,過度な代償性発汗が現れたケースはありませんでした.
3.T4-ETS後の5年後の結果もほぼ同様でした.夏の暑いときや運動後に代償性発汗は75%の患者様に出現しましたが,その程度はほとんど気にならない,もしくは中程度であり,過度な代償性発汗が現れたケースはありませんでした.
低位交感神経遮断手術(T4-ETS)1年後,3年後,5年後の術後患者満足度
1.T4-ETS後の1年後の患者満足度は大満足が6割,満足が3割,やや満足が1割でした.やや不満と答えた患者様は3名(2%)で,夏の暑いときや過度に緊張したときに少し汗がでることに対する不満でした.
2.T4-ETS後の3年後の結果もほぼ同様でした.大満足が5割,満足が4割,やや満足が1割でした.やや不満と答えた患者様は3名3%)で,夏の暑いときや過度に緊張したときに少し汗がでることに対する不満でした.
3.T4-ETS後の5年後の結果もほぼ同様でした.大満足が5割,満足が4割弱,やや満足が1割弱でした.やや不満と答えた患者様は7名(7%)で,夏の暑いときや過度に緊張したときに少し汗がでることに対する不満でした.このうち5年間の間に6名の患者様はT4-ETS後に当院でT3-ETSの追加を受けました.6名とも代償性発汗はさほど増加せず,手のひらの汗は完全に停止して2回目の手術後に大満足されました.アンケート行ったほぼ全例の患者様が同じ悩みを持つ家族や友人にT4-ETS手術を勧めるとお答えになりました.
低位交感神経遮断手術(T4-ETS)後に少し手汗がでる場合の神経分布の個人差
1.T4-ETS後に手のひらの発汗停止,ほぼ停止した患者様は85%強です(左図).仮にこれらの患者様に最初からT3-ETSを施行していれば,手のひらはカサカサになりむしろ過剰な代償性発汗で手術を後悔していた可能性があります.
2.T4-ETS後に夏の暑いときや過度に緊張したときに少し汗がでる患者様は15%弱です(右図).左図に比べ,神経分布がやや上方に位置していると考えられます.これらの患者様ではTh4遮断後手汗が少し出るために再手術でT3-ETSを追加しても代償性発汗が少なくて済むと考えられます.
3.これまでに当院でT4-ETS後に手のひらの汗が少し出るためにT3-ETSを追加した患者様は全体の1.4%です.上記の神経分布の違いからT3-ETSの再手術後にも代償性発汗はさほど増加せず,手のひらの汗は完全に停止して大満足されました.
【結語】T4-ETSは術後に手汗がわずかに残存する症例もありますが,過剰な代償性発汗がなく患者満足度も高く,手掌多汗症で悩む患者様に対する第一選択になると思われます。