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Q. そけいヘルニアとは,どんな病気ですか?
A. ももの付け根から恥骨あたり(そけい部)の腹壁筋膜が弱くなり,その裂け目から腹膜に包まれた腸や脂肪など,内臓の一部が皮膚の下に脱出してくる病気がそけいヘルニア(いわゆる脱腸)です.長時間歩いたり,腹部に力を入れると,ゴルフボール大からこぶし大に足の付け根が膨らみ,下腹部が引っ張られるような痛みがあります.胎生期から腹壁筋膜の抵抗の弱い部分があり幼児期に発症する場合と,加齢とともに筋膜がゆるみ中年以降に発症する場合があります.外科の病気では虫垂炎(いわゆる盲腸)とともに最も頻度が高いとされ,その9割近くは男性です.
Q. 放置しておくとどうなるでしょうか?
A. 年月とともに,徐々に膨らみが大きくなっていきます.膨らみを手で押さえたり,睡眠中には自然と引っ込んでいることが多いのですが(還納性),腸や脂肪が癒着して,常に脱出したままの状態になる場合もあります(非還納性).脱出した腸が,ヘルニアの出口で締め付けられて血行障害をおこすと(かんとん),激しい痛みを生じ,腹膜炎を併発して,緊急手術で腸を切除しなければならないこともあります.
Q. どんな治療が行われるでしょうか?
A. 腹壁の筋肉を鍛えても,自然に治癒することはないため,やはり手術が必要です.以前は筋膜の裂け目を縫い合わせる手術(従来法)でしたが,筋膜がつっぱるため術後の痛みが強く,弱い部分が再び裂けて,再発するケースも少なからずありました.現在は,生体に安全なポリプロピレン素材の人工膜メッシュで筋膜を補強し,ヘルニアの出口をふさぐ手術が主流です.手術後の創傷治癒の過程で,メッシュの網の目に組織が入り込み,強固な筋膜を形成していきます.この手術法は筋膜の上にメッシュを固定する方法と,筋膜の下にメッシュを挿入する方法に分けられます.筋膜の上にメッシュを固定する方法は腹圧が過度にかかると,メッシュが持ち上がり,再発してしまうこともあります(図1).一方,筋膜の下にメッシュを挿入する方法では,腹圧を筋膜の内側で均等に支えるため,力学的に優れています(図1).さらに,そけい部には,解剖学的に筋膜の弱い部分が数ケ所に潜在するため,将来のヘルニア再発を予防するためには,そけい部全体をメッシュで補強する必要があります.メッシュを用いた手術は,日本では10数年前より数種類の手術法が行われていますが,最近,形状記憶型メッシュを用いた新しい手術法(クーゲル法)が注目されています.クーゲル法は,形状記憶で瞬時に広がるメッシュを筋膜の下に挿入する方法で,これまでの欠点であったメッシュの移動やたるみがないため,もっとも理想的な手術法といえます(図2).過去に他の方法で手術をうけた再発ヘルニアでは,ヘルニアの出口以外にも脆弱な部分があることが多く,そけい部全体をクーゲル法で確実に補強すれば,以後は再発することはないと思われます.通常のメッシュを用いた方法に比べ,クーゲル法では皮膚切開のきずも約3cmと小さく(図3),手術時間はわずか20分程度です(手術実績).メッシュは筋膜の下に広がるため,術後のつっぱりや異物感はほとんどありません.もちろん健康保険の適応で,手術料は他のメッシュの方法と同額です.当院ではクーゲル法を日帰り手術で行っていますから,入院のわずらわしさがないだけでなく,入院費用も節約できます.体内にはすべて溶ける糸を用い,皮膚切開部に生体用瞬間接着剤を用いるため,抜糸の必要がなく,手術当日から入浴が可能です.
Q. 子供や若い女性にもメッシュを用いるのですか?
A. からだが成長している段階ではメッシュを用いるべきではありません.乳児期や学童期のヘルニアでは,筋膜を補強する必要はなく,ゆるんだ腹膜を根元で縛る(高位結紮法)方法で,ほとんど再発しません.何歳くらいからメッシュを用いて筋膜を補強すべきかは,はっきりした基準はありませんが,私は思春期以降の成人ヘルニアに対しては,原則としてすべてクーゲル法を用いています.妊娠可能な若い女性にメッシュを用いるかは,専門家のあいだでも賛否両論がありますが,クーゲル法のように筋膜の下に平坦にメッシュが広がっている状態では,将来,妊娠しておなかが大きくなっても,まったく影響ないと考えます.妊娠中はかなりの腹圧がかかるため,むしろ従来法だけでは再発の可能性が高くなることを危惧しています. |